ユダヤ陰謀論で読み解く226事件の謎

反日

226-1

226事件には謎が多いーー。

この事件は通常、天皇親政を目指した皇道派の青年将校によるクーデターという説明がなされている。しかし、よほどの歴史オタクでもないかぎり、この説明だけで事件の全容を了解できる一般人はほとんどいないであろう。彼らが何に憤り、何を目的としたのか、そしてその背景にはいったい何があったのか、すくなくとも一般の人にはなんら具体的なイメージが浮かばないからだ。

ではなぜ青年将校たちはあのようなー血気にはやったとさえいわれるーだいそれた事件を引き起こしたのであろうか? それを知る手がかりとして、ここでは彼らの思想的よりどころとなった『日本改造法案大綱』をひもといてみたい。

『日本改造法案大綱』は、いうまでもなく国家社会主義者として知られる北一輝の著作である。これは当時の行き詰まった日本を改造するためのいわば革命マニュアルでもあったわけだが、その柱となっていたのは「国家社会主義」と「アジア解放」の二つである。そしてこのふたつをもって新生日本をつくろうとした彼らが掲げたのが昭和維新というスローガンであった。

昭和維新というのはいうまでもなく明治維新にならったものである。明治維新の際、打倒すべき対象となったのは徳川幕府であったが、昭和維新の場合、それは政治家と財閥であった。社会の行き詰まりの原因はどこにあるのかーー。彼らによれば、それは腐敗した政治家と財閥にあった。財閥は英米資本とつるんで国内外に貧困を生み出している。そして政治家はそれと結託し、甘い汁を吸っている。これはけしからん、というわけだ。

そうしてこれを解決するためのひとつ目の柱とされたのが、国家社会主義という社会経済システムであった。

もうひとつの柱となったのは、アジア解放である。彼らはアジアで唯一近代化に成功した日本は、英米の植民地支配にあえぐアジアを解放せねばならないと考えた。しかるに、いまの日本の政治家と財閥は英米協調の名の下、英米と一緒になって金儲けにうつつを抜かしている。これもけしからん。本来、日本がすべきことは英米の機嫌を取りながら金儲けに精を出すことではない。アジアを英米の桎梏から解放することだと考えたのである。

これだけみるとずいぶん過激で突飛な考え方のように思う人もいるかもしれない。しかし、あの当時、こうした考え方はそれほど過激なものでも突飛なものでもなかった。当時の右翼勢力を代表するイデオローグであった大川周明も、現況の世界体制をかつての徳川家を中心とした幕藩体制の地球版とみなし、その最大の実力者たる英米を「世界幕府」と称し打倒すべき対象としていた。本来、倒すべき徳川幕府に取り入り、甘い汁を吸う地方の大名に日本を、とくにその支配階級をなぞらえたわけである。

ただ、ここで気になるのは「英米(もしくはその裏にいる支配者)を世界幕府」とみなす考え方と「英米資本と結託して民衆を苦しめる国内の売国奴」という図式が21世紀のいまもなお一部の人の間で信じられているユダヤ陰謀論ときわめて似ていることだ。これは何を意味しているのだろうか?

思い出してほしいのは、当時、少なくない軍人たちがユダヤ陰謀論の信奉者だったことである。実際、当時の上級将校の一部はユダヤ陰謀論を提唱する怪しげな宗教団体や政治団体のメンバーだったという記録も残っている。そうである以上、226事件を引き起こした当時の皇道派将校たちもまた何らかの形でこのユダヤ陰謀論の影響を受けていたとしてもなんら不思議はないだろう。

というより、社会改革の理想に燃え、世界中の新思想に対しても鋭敏なアンテナを張っていた年若い将校たちがそれを知らなかったというのは逆に考えにくいだろう。さらに仮に知っていたとすればだが、当然のことながら、その影響をまったく受けなかったというのも考えにくいのではないか。純粋で感受性に優れた若いインテリたちのことである。全面的に信じるところまではいかずとも、おそらく多少なりとも影響を受けたであろうことは容易に想像がつく。そもそも皇道派将校たちの思想がユダヤ陰謀論と似たような構図を持っていること自体、両者の間になんらかのつながりがあったことを示しているとはいえないか?

ということは、もしかしてもしかしたらの話であるが、226事件の原動力となったのはじつはユダヤ陰謀論であり、皇道派の将校たちはユダヤによる世界支配を阻止せんとして決起したのだ、という仮説もあるいは成り立つのではないかーー。

もちろんこんなものは仮説というよりただの妄説でしかない。しかし、もしかするとこの妄説を裏づけるかもしれない出来事が、ちょうどその前年、中国で発生していたことには触れておいてもよいだろう。蒋介石の国民政府が英米の支援のもと断行した幣制改革である。これは名目上は中国の古い貨幣制度を近代的な管理通貨制度に改めるというものであったが、実際には貨幣発行権という国の根幹に関わる主権を蒋介石とその取り巻きが巨額な賄賂と引き換えに英米資本に売り渡したも同然の売国的な政策であった。

これを当時の愛国的な皇道派将校たちがどのようにみていたのかはわからない。しかし、おそらく彼らはこう考えたのではないだろうかーー。このままでは日本の政治家・財閥も中国同様、いつか英米資本にこの国を売り渡してしまうかもしれない、と。そうして、焦燥感に駆られた彼らが、もはや一刻の猶予もならないと思い詰めたあげく引き起こしたのが二二六事件だったのではあるまいか。

繰り返しになるが、これは憶測の上に憶測を重ねた妄説とすらいえない与太話である。だが、仮に皇道派の将校たちの考え方がこのようなものであったとしたなら、彼らがなぜあれほど義憤にかられたのか、なぜ彼らの怒りが高橋是清や西園寺公望ら英米と近しい政治家に向けられたのか、おぼろげながらではあるがなんとか理解できるような気がするのは私だけだろうか。

それにしても気になるのは当時皇道派を突き動かしたかもしれないユダヤ陰謀論が、現代の日本社会に再び広がっているという現実だ。これはいったい何を示唆しているのであろうか。いずれにせよ、こうした時空を超えた偶然の一致も含め、この226事件が日本近代史における最大の謎のひとつとして、いまもなお不可解なベールに覆われていることだけは間違いない。

 

 

 

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