中国の「百年マラソン」戦略と「第三次国共合作」としての米中国交回復
アメリカ人中国研究者であるマイケル・ピルズベリーが書いた『CHINA2049』という本が話題を呼んでいる。
これは、いわゆる「中国の百年マラソン」についてアメリカ政府お抱えの中国専門家だった著者がその全貌をあきらかにした本である。
百年マラソンとは、「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年に当たる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」ことを目指す中国の秘密戦略とされている。
当然ではあるが、この戦略について中国政府は公式には明言しておらず、その存在自体もふくめ真偽はいまだ定かではない。だが個人的には、それが実際に存在している可能性はきわめて高いと思っている。というのもその戦略を前提に見直すと、それまでバラバラだった多くのことがらが突如として一本の線上につながって見えてくるからだ。
そうして見えてくる線のひとつに米中国交回復とその前後の流れがある。1972年、中ソ対立と冷戦を背景にそれまで犬猿の仲だったアメリカと中国が突如手を結んだこの米中国交回復は、左右の対立で揺れていた当時の世界に衝撃をあたえるとともに戦後の国際政治の流れを変える大きな歴史的事件となった。
この米中国交回復であるが、背景にあったのは米ソ中という三すくみの構図である。そして面白いのは、それが戦前の西安事件にはじまる第二次国共合作における中国共産党・国民党・日本という三すくみの構図とうりふたつであることだ。
第二次国共合作における構図は、「中国共産党」が「国民党」の圧迫を受ける中、「日本」をダシに国民党に接近したという図式である。これに対して米中国交回復におけるそれは、「中国」が「ソ連」の圧迫を受ける中、「冷戦」をダシに米国に接近したという図式である。
そして第二次国共合作において合作の相手である国民党を最終的に追い払ってしまったように、米中国交回復後の現在、中国は将来的にアメリカを追い払おうとしているようにみえる。
ということは、この米中国交回復は、すくなくとも中国共産党側からすれば事実上の「第三次国共合作」だったといってよいだろう。もちろん相手は国民党ではなくアメリカなので正確には「米中合作」であり、また第三次ではなく第一次というべきかもしれない(戦前の米中共闘を考慮すれば第二次ともいえる)。だが、そうした些末な違いはさておき、ここで重要なのはそこにある構図が第二次国共合作と酷似していることだ。
中国共産党お得意の「人のふんどしで相撲をとる」戦術
構図ばかりではない。そこでとられた戦略・戦術もまたきわめてよく似ている。
第二次国共合作時における中国共産党の戦術は、日本軍の武器を鹵獲し、それでもって自らを武装するというものだった。いわば人のふんどしならぬ人の武器で相撲をとる戦術である。またその際、採用されたのが「敵進めば我引く。敵引けば我撃つ」というのらりくらりとした撹乱戦法だった。
これに対して、米中合作後の戦略は、米国(および西側)の技術と資本を奪い取り、それでもって自らの経済成長を図ろうというものだった。いうまでもなくこれは武器を資本・技術に置き換えただけで本質的には第二次国共合作時のそれとなんら変わりはない。またその際、採用されたのがいわゆる「韜光養晦」(能ある鷹は爪を隠す)戦術である。これもまた戦前同様、一種の撹乱戦法といえるだろう。
このように両者の骨組みは驚くほどよく似ている。
ここでもうひとつ、つけくわえておきたいことがある。それは、それらが同じ戦略であることに気づく人が日本やアメリカの中国専門家も含めどういうわけかこれまで世界中にほとんどいなかったという事実である。
なぜ誰も気づかなかったのか。もちろんそれは黒を白と言いくるめる中国共産党の宣伝戦略の巧みさが最大の理由ではあるのだが、そこにはもうひとつ別の理由もありそうだ。それは中国共産党が繰り出す「策略」が、われわれ日本人にはもちろん欧米人にとっても想像を絶するものであったということである。
それを示すよい例が第二次国共合作である。第二次国共合作において中国共産党は、現にいま戦火を交えている敵である国民党に接近し、協力させることに成功した。それもたんなる和平協定などではない。和平協定を超えて一挙に軍事同盟にまでもっていったのである。昨日の敵は今日の戦友というわけである。はたから見ると狐につままれてでもいるかのような驚くべき変わり身の早さだ。
それまで敵同士であった両国が手を結んだという点では米中国交回復も同様かもしれない。しかし敵同士といってもその当時、両国は実際に戦火を交えていたわけではない。それに国交回復といっても軍事同盟まで結んだわけではない。そう考えると、第二次国共合作がいかに非常識なものであったかがわかるだろう。
そうした非常識なことをやってのけてしまうのが中国人である。その調略の才たるや、長年近所づきあいをしてきた我々日本人でさえ舌を巻いてしまうほどの巧みさだ。ましてやお人好しで単純明快なアメリカ人である。彼らにとって、孫子以来2000年以上にわたり磨き上げられてきた中国人による深謀遠慮は、せいぜい数百年の蓄積しかもたない西洋の専門家の常識的な予想をはるかに超えた、「ありえない」選択肢として映ったであろうことは想像に難くない。
アメリカ政府お抱えの中国専門家だったという著者自身がかつて自分もそうだったと告白しているように、研究者をふくむ多くの米国人がいまも中国に騙されているという現状にはむべなるかなとうなづくほかにない。
いずれにせよ、中国共産党がこの「第三次米中合作」でもって早晩、アメリカを裏切り、同時にアメリカを覇権国の座から追放しようと裏で画策していることは間違いなさそうだ。そしてそれはいまの国際情勢をみるかぎり、シナリオ通り着々と進んでいるようにみえる。
追記
中ソ合作、日中友好もまた中国共産党の「寄生」戦略だった
米中国交回復が第三次国共合作であると書いたが、もうひとつ重要なものを忘れていた。中ソ合作である。
そもそも、コミンテルンの指導下に生まれたその出自からもわかるように、中国共産党自体が最初から中ソ合作という形で誕生したものである。その後、第一次と第二次の国共合作の期間中も裏ではこの中ソ合作が継続中だった。というより、第一次と第二次国共合作を指示したのもソ連だった。
そして中国共産党は、中ソ合作を背景に国民党を追い落とし、大陸全土を支配下に置いた。これは誰もが知る歴史的事実である。ここまではよい。問題はその後である。
政権基盤がある程度安定してきた1960年代、突如として中ソ対立が持ち上がった。原因についてはさまざまいわれているが、よくみればわかるようにここにあるのはおなじみのパターンである。つまり、さんざん相手を利用したあげく最終的に裏切るというお得意の手のひら返し戦略である。要するに、中国共産党は国民党ばかりでなくソ連までも体よく利用していたのだ。そうして中国大陸の覇権奪取という当初の目的を達成した中国共産党が、もはや用済みとなったソ連を追い出しにかかったのが中ソ対立の本質といえるだろう。
こうしてみるとわかるように、その誕生から現在にいたるまで中国共産党を支配しているのは相手に寄生した後、恩を仇で返すという裏切りのDNAである。ここにあるのは、最初はいかにも友好的な態度で強者にすりより、用済みとなると今度は手の平を返すばかりか逆に攻撃してくるという寄生虫以下の卑劣な行動パターンである。寝首をかかれるという言葉があるが、まさにそれである。
またこうした観点からいえば、1972年の日中国交正常化後に囃したてられた日中友好なども他の合作戦略と同様、日本への寄生戦略だったといえよう。実際、日本も中国から搾られるだけ搾り取られたあげく、体よく追放されてしまったではないか。いや追放されただけならまだよい。いまや中国は恩を仇で返すかのように、日本を叩き潰せと官民挙げて攻撃をしかけているところだ。このままいけば、「中華人民共和国日本族自治区」という日本にとって最悪の悪夢が近い将来現実のものになってしまう可能性も否定できないだろう。
アヘン戦争以来、屈辱をなめさせられたいわゆる恥辱の100年。それに対する中国人の恨みは根深く凄まじい。その怨嗟と恐怖の中から生まれ、成長してきたのが陰謀と裏切り、そして復讐という暗黒のDNAをもつ中国共産党である。そしてそんな中国共産党が大陸の覇権を奪取した後、次の照準として狙いを定めているのが世界の覇権奪取である。
しかし自身がそのためのたんなる踏み台でしかなかったことに米国が気づいた今、彼らがその正体を現すのはもはや時間の問題であろう。
可愛らしいパンダを前面に配した竹のカーテンの後ろには、世界に対して血の決済を求めるべく夜な夜な復讐の刃を研いでいる中国共産党という異形の怪物の姿が見えはじめている。
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